出社回帰とリモートワーク、揺れ動く働き方の中で「住む場所」はどう選ぶべきか
「フルリモートだから通勤は考えなくていい」と郊外や地方に引っ越したら、 数年後に出社方針が変わって通勤地獄になった——そんな話が珍しくなくなりました。 働き方の振れ幅そのものを前提にした、立地選びの考え方を整理します。
「フルリモート前提」の移住が抱えるリスク
働き方が会社都合で決まる以上、個人の住居選択は常に「その時点の会社方針」に賭ける形になります。 フルリモートを前提に通勤時間を無視して住む場所を決めると、 会社の方針転換一つで生活設計が崩れるリスクを抱え込むことになります。
実際に、コロナ禍で地方や郊外に移住した人の中には、 その後の出社方針の変化で「月1回の出社」のために新幹線通勤や前泊を強いられているケースがあります。 引っ越しは家賃契約・学校・地域コミュニティなど生活基盤ごと動かす行為なので、 方針が変わったからといってすぐに住み直せるものではありません。
一方で「どうせ出社することになるから」と都心近接に固執するのも、 今のオフィス縮小・サテライトオフィス化の流れを踏まえると過剰な保険かもしれません。 結局のところ、大事なのは「どちらかに全振りしない」立地の選び方です。
主流になりつつある「ハイブリッド勤務」という現実
多くの企業が着地させているのは、フルリモートでもフル出社でもなく、 週2〜3日出社の「ハイブリッド勤務」です。 これは経営側の事情(オフィス賃料の固定費と、対面コミュニケーションの必要性のバランス)から見ても、 当面は大きく揺り戻ることの少ない、比較的安定した着地点だと考えられます。
ハイブリッド勤務が前提になると、住む場所選びの計算式も変わります。 「出社ゼロなら通勤時間は関係ない」でも「毎日出社前提でとにかく職場の近くに」でもなく、 「週に数回、耐えられる範囲の通勤時間はどこまでか」という中間の基準が必要になります。
この基準は人によって大きく違います。 週5日通勤なら30分の差が生活に与える影響は大きいですが、 週2日なら往復1時間の通勤でも、月換算では8〜9往復程度に収まります。 出社頻度が下がるほど、多少の通勤時間の長さは許容しやすくなるということです。
「出社頻度×通勤時間」で許容ラインを計算する
具体的な考え方として、月あたりの通勤にかける総時間で立地の許容範囲を判断する方法があります。 たとえば「月の通勤総時間は10時間まで」という上限を自分の中で決めたとします。
週5日出社(月20日)なら、片道の許容時間は 10時間 ÷ 20日 ÷ 2(往復)= 約15分。 週2日出社(月8日)なら、10時間 ÷ 8日 ÷ 2 = 約37分。 同じ「月10時間まで」という基準でも、出社頻度によって許容できる通勤時間は倍以上変わります。
この計算をしておくと、「今の会社は週2日出社だから、片道40分圏内なら郊外でも問題ない」 といった具体的な判断ができるようになります。 感覚ではなく数字で線を引くことで、後から後悔しにくい選択になります。
フルリモート可能な職種でも、立地に「保険」をかけておく
現時点でフルリモートが認められている職種・会社であっても、 将来にわたってその条件が続く保証はありません。 転職の可能性も含めれば、「今の会社の今の方針」だけを根拠に立地を決めるのは、 思っている以上にリスクの高い賭けです。
現実的な保険のかけ方は、「フルリモートでも快適」かつ「必要になれば主要駅まで一定時間で出られる」 という二重の条件を満たすエリアを選ぶことです。 具体的には、新幹線や特急が停まる主要駅から在来線で30〜40分圏内の郊外は、 この二条件を両立しやすいゾーンになります。
完全に通勤を無視した選択(例えば主要駅まで2時間かかる地方)は、 家賃や生活コストの安さと引き換えに、この保険を手放すことになります。 それが許容できるリスクかどうかは、職種の安定性や転職市場での自分の立場も踏まえて判断すべき点です。
見るべきは「駅からの距離」より「主要駅へのアクセス」
出社頻度が不確実な時代の立地選びでは、「最寄り駅から徒歩何分か」よりも、 「その街から都心の主要駅までどれくらいで行けるか」を重視した方が、方針変更への耐性が高くなります。
最寄り駅から徒歩5分でも、そこから乗換2回で都心まで90分かかる街と、 最寄り駅から徒歩15分でも、乗換なしで都心まで40分の街では、 「たまの出社」が発生したときの負担が大きく異なります。
街くらべの各市区町村ページでは家賃・治安・所得などのデータを掲載していますが、 こうした「アクセスの質」は数字だけでは分かりにくい部分です。 候補地が決まったら、実際に平日の通勤時間帯に主要駅までの所要時間を調べておくことをおすすめします。